EWFの傑作「RAISE!」
“光とグルーヴの魔術師たちが再び世界を照らす——。”
1981年。日本では竹の子族が原宿を彩り、ソニーのウォークマンが若者たちの通勤通学の友になり、カラオケが街角に広がり始めた時代。そんな時代の空気の中で、アメリカから届いたのが、あの“Earth, Wind & Fire(EWF)”の新作『RAISE!』だ。
ディスコブームが一巡し、より洗練されたサウンド=アーバン・ブラックミュージックへと世界の耳が移っていた頃、このアルバムはまさにその潮流の頂点に立つ作品といえるだろう。
■ ブラックミュージックの“光の方程式”
モーリス・ホワイト率いるEWFは、単なるバンドではない。ファンク、ソウル、そしてスピリチュアルなメッセージを融合した“宇宙的ブラックミュージック・ユニット”だ。
彼らの掲げるポジティブなメッセージと美しいハーモニーは、まるで音楽の宗教とも言えるほどに高次元。その哲学は『RAISE!(=高める)』というタイトルにも表れている。
ブラックミュージックが「踊るための音楽」から「心を照らす音楽」へと変化していく――その瞬間をこのアルバムは見事に刻んでいるのだ。
■ チャートを席巻した「Let’s Groove」(レッツグルーブ)!
アルバム冒頭を飾る「Let’s Groove」は、EWF流のエレクトロ・ファンク宣言。
ビルボードR&Bチャートで 1位、ポップチャートでも 第3位 を記録。トークボックスを使ったボーカルエフェクトが話題を呼び、当時のLAクラブシーンでは“未来のファンク”と評された。
日本でもディスコ「マハラジャ」や「ジュリアナ」の前身的クラブでかかり、ソニーのCMタイアップが検討されたほどの人気ぶりだったとか。
続く「My Love」や「I’ve Had Enough」では、よりメロウなグルーヴが光り、ラストを締めくくる「Raise!」は、スピリチュアルで壮大なEWFの世界観を象徴している。
ブラックミュージックの深みとポップフィールドの華やかさ、その両方を絶妙に行き来する構成はまさに職人技だ。
PickUp曲)「I Wanna Be With You」——ロマンティック・ファンクの極致
アルバム『RAISE!』の中で、「Let’s Groove」がダンスフロアの主役なら、この「I Wanna Be With You」は深夜のネオンサインの下で流れるラブ・メッセージだ。
モーリス・ホワイトとフィリップ・ベイリーのツイン・ヴォーカルが、まるで昼と夜の境界線のように絡み合う。そこに流れるのは、ブラックミュージックの持つ“優しさ”と“官能”の絶妙なバランス。
この曲は1981年秋にシングルカットされ、ビルボードR&Bチャートで7位、ポップチャートでもTop40入りを果たした。前作『Faces』で一時停滞気味だったEWFが、“再び愛をテーマに世界を掴んだ瞬間”でもある。
そのサウンドは、ファンクのリズムをベースにしながらも、ストリングスとエレピが織りなすメロディが心地よく、後のクワイエット・ストームやアーバン・コンテンポラリーの原型ともいえる洗練度を誇っている。
■ 恋愛ドラマのような構成
「I wanna be with you…」という囁きに続くサビの展開は、まるでシネマティック。
リスナーは曲の中で“恋に落ちる瞬間”を体験する。
当時のFM放送では、夜のワイド番組「JET STREAM」や「NIGHT FLIGHT」でのオンエア率も高く、リクエスト葉書には「彼(彼女)にこの曲を送りたい」という声が多く寄せられたという。
まさに日本のリスナーにも“届いた”ブラックミュージックだった。
■ 制作の裏話
米国の音楽誌『Billboard』によると、この曲のレコーディングでは、モーリス・ホワイトが「愛の波動を込めろ」とメンバーに語ったそうだ。
レコーディング中、深夜スタジオの照明を落とし、キャンドルだけで演奏したという逸話まで残っている。
そのせいか、トラック全体にほんのり漂う温もりは、デジタルではなく“人の体温”そのものだ。
これこそがEWFが持つ“ソウル”の力、すなわちブラックミュージックの本質である。
■ 日本の空気とこの曲
1982年、日本では「セーラー服と機関銃」がヒットし、都会の片隅に“ロマンチックな孤独”が流行していた。
そんな時代に「I Wanna Be With You」は、まるで夜の街を包み込むスローモーションのように響いた。
ウォークマンで聴けば、まるで映画の主人公になったような気分。EWFが“都会の恋”を描いた、数少ない作品といえるだろう。
■ EWFプロフィール
アース・ウィンド&ファイアーは、1969年にモーリス・ホワイトを中心にシカゴで結成。
70年代半ばに「Shining Star」や「September」で一世を風靡。ホーンセクション“Phenix Horns”と壮大なステージ演出で知られ、まるで宇宙と交信するようなライブは世界中で伝説となった。
彼らはブラックミュージックを“アート”へと昇華させた、唯一無二の存在である。
■ アメリカでの話題と“噂”
本作『Raise!』の制作中、モーリスが新しい電子楽器“プロフェット5”を大胆に導入したという裏話も。
当時、スティーヴィー・ワンダーやプリンスが同機を使い始めたことから、「EWFが次世代ブラックミュージックの方向性を決めた」と評論家が絶賛。
また、アル・マッケイ(G)脱退の噂が流れ、ファンの間で心配の声もあがったが、代わりに若手ギタリストのシェルドン・レイノルズがサポートに入り、むしろサウンドは新時代の輝きを得たといえる。
■ “Raise!”が照らした80年代初頭
この作品の成功によってEWFは再び世界のトップバンドの座を確固たるものにした。
アナログとデジタルが交錯する1981年、ブラックミュージックはファンクからエレクトロ、そしてAORへと進化していく。その転換点に立っていたのが、まさにこの『Raise!』なのだ。
ウォークマンを片手に“Let’s Groove tonight”を口ずさみながら通学する日本の若者たち——そんな風景が目に浮かぶようだ。
■EW&Fが流れるお店
Motown House(六本木)(モータウンハウス)
〒106-0032 東京都港区六本木3丁目11−6 21泰明ビル 4F
知る人ぞ知る六本木モータウンハウス。エントランスフリーでドリンク代だけで、懐かしいソウルナンバー、ブラックミュージックを楽しめます。聞きたい曲は100円でリクエストカードに書いてDJに渡そう。年代国籍を問わず楽しめるお店ですが、一つだけ注意点があります。駅から近い、週末は混む、何よりエントランスフリーなので出入り自由、それゆえに残念ながらスリや置き引きのリスクが高いです。面倒でも鞄やバッグ、貴重品は六本木駅のコインロッカーに預けましょう。楽しいお店だけに嫌な思い出だけは作って欲しくありませんから。






















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