特集記事

「ロンリー・チャップリン」と「Take Good Care Of My Heart」

——80’s RandBの香りが交錯する“似ている”論争をめぐって

1980年代後半、日本の音楽シーンに大きな爪痕を残した鈴木聖美 with Rats & Star「ロンリー・チャップリン」(1987)。
一方、アメリカでは若き日のホイットニー・ヒューストンとジャーメイン・ジャクソンがデュエットした「Take Good Care Of My Heart」(1983録音、1985年に音源化)が、ソウル〜AORファンの間で静かな人気を保っていた。

そして“耳のいいリスナー”の間では、長年ひとつの話題が囁かれてきた。
「この2曲、似ていない?」
あるいは、
「ロンリー・チャップリンはTake Good Care Of My Heartを参考にしたのでは?」
ここでは、その“似ている”と言われる理由を音楽的に整理してみたい。


◆1. 両曲に共通する「80年代バラードの典型フォーマット」

まず両曲は、いずれも1980年代R&B〜Aーバラード特有の構造を持つ。

●似ていると言われるポイント

男女デュエットを前提とした掛け合い構造

・「ロンリー・チャップリン」…深みのある鈴木聖美の声と、弟、鈴木雅之の甘いテナー
・「Take Good Care Of My Heart」…ホイットニーのクリアなソプラノに、ジャーメイン・ジャクソンの豊かなバリトン

“お互いのフレーズを呼び合う構造” が非常に近い。

Aメロのコード推移の似通い

両曲とも
落ち着いたマイナー進行 → サビに向けてメジャーに開く
という、80年代の王道R&Bバラードの流れを踏襲。
特に、Aメロ後半からブリッジへの“じわりと上がる”感覚は類似して聞こえる。

サビの“上行メロディ”のタイミングが近い

「ロンリー・チャップリン」の
♪“ロンリー・チャップリン〜” の上昇メロ

「Take Good Care Of My Heart」の
♪“Take good care〜” と伸び上がるメロ
の“入り”の形が似ているという指摘は多い。


◆2. 違いはどこにあるのか?

一方で、音楽的には明確な違いも存在する。

●異なるポイント

・「Take Good Care Of My Heart」は よりAOR寄りで軽やかなバラード
・「ロンリー・チャップリン」は 日本的演歌の情緒を帯びたソウル
・メロディの細部、解決の仕方、サビの広がりは別物

特に「ロンリー・チャップリン」は 鈴木雅之のディレクションによる“和製ソウルの湿度” が特徴で、これはホイットニー作品には存在しない味わいだ。


◆3. “模倣”と語られる背景

ではなぜ、ここまで似ていると語られてきたのか?

●① 80年代R&Bの定番フォーマットが共通していた

・男女デュエット
・メロディの上昇ライン
・バラードのコード進行
この組み合わせは当時非常に多くの曲が採用していた。

つまり
“共通の文法を使っているため似て聞こえる”
という側面が大きい。

●② 日本での男女デュエット・ソウルの希少性

日本では80年代に、
アメリカ式のデュエット・ソウル自体が珍しかった。
そのため、類似性がより鮮明に耳に残った可能性が高い。


◆4. 似ているのは事実、しかし“同じ”ではない

音楽理論的に見ても、
構造・雰囲気の近さは確かにある。
しかし、
メロディやコード進行が決定的に一致しているわけではない。

あくまで
「80年代R&Bバラードの文法を、日米それぞれの解釈で表現した結果の近さ」
というのが最も自然な見立てだ。

むしろ、この2曲を聴き比べることで
“和製ソウルの湿度”と“アメリカAORの爽快さ”の違い
が鮮明に浮かび上がる。


◆2曲を聴き比べる楽しさ

・日本的ソウル表現の頂点「ロンリー・チャップリン」
・若きホイットニーの宝石のような声が輝く「Take Good Care Of My Heart」

どちらも80年代バラードが最も美しく花開いた時期の作品だ。
“似ている”という議論を超えて、
2曲は時代を映す美しい鏡
として聴き比べる価値がある。

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