──レゲエが世界に広がった瞬間、その中心にいた男
11月24日。ニュースが静かに伝えた一本の訃報は、まるで季節の風向きが変わるように、心の中へすっと入り込んできた。
Jimmy Cliff、享年81。レゲエがまだ“ジャマイカのローカルサウンド”と呼ばれていた頃から、その魅力を世界へ押し広げた稀有な存在が、ひとつの旅を終えた。1944年、ジャマイカのソマートンに生まれ、若くしてキングストンへ。
音楽を武器に、島の空気をそのまま抱きしめるような声で、スカ、ロックステディ、そしてレゲエの時代を駆け抜けた。その軌跡は、一言で言えば“光と影の旅路”。世界がレゲエを知り、感じ、踊り出す――その瞬間の中心に、いつもJimmy Cliffがいた。
あの時代、耳が覚えている、Jimmy Cliffの功績
1972年、映画『The Harder They Come』。
この作品をきっかけに、レゲエは一気に世界のリスナーに解き放たれた。
スクリーンに映るJimmy Cliffの眼差しは鋭く、美しく、そして切なかった。
主題歌をはじめ、「You Can Get It If You Really Want」のポジティブな疾走感は、
“ジャマイカの若者の息遣い”をそのまま世界に伝えたと言ってもいい。
ジャマイカからロンドンへ、さらに各国のステージへ。
レゲエを国境の外へ連れ出し、ソウルやロックとの融合にも挑戦。
その自由さ、軽やかさは、同時代のミュージシャンにも多くの刺激を与えた。
そして2010年にはロックの殿堂入り。
レゲエが世界のメインステージに居場所を得た背景には、Jimmy Cliffの長年の歩みが確かにある。
名曲「Many Rivers to Cross」
──静かな夜に、そっと寄り添う“川の歌”**
ジャマイカ音楽を語るとき、この曲を外すことはできない。
1969年のバラード、「Many Rivers to Cross」。
ロンドンで孤独と葛藤の中にいた頃に書かれたというこの歌は、
初めて聴いたときの胸を締めつけるような響きが今でも忘れられない。
“I’ve got many rivers to cross”
――越えなければならない川が、まだこんなにある。
ゆったりと流れるオルガンの音色。
深く、少しだけ枯れたJimmyの声。
人生の途中でふと立ち止まり、行き先を見失いそうになる夜、
この曲がそっと背中を支えてくれることがある。
心が折れそうになった時期に、
この曲をひたすら繰り返して救われた。
「音楽が支える」という言葉をそのまま体現したような一曲だ。
Jimmy Cliffを形づくった代表曲たち
- You Can Get It If You Really Want
これを聴かずしてレゲエは語れない。
陽の光のように前向きな名曲。 - Wonderful World, Beautiful People
世界の美しさと人々のやさしさを、素直に歌ったレゲエポップ名曲。 - Vietnam
社会的視点を真っ直ぐに投げかけた反戦歌。
ボブ・ディランが絶賛したことでも知られる。 - Sitting in Limbo
旅の途中の不安と希望を歌った、静かなレゲエ・ソウル。 - I Can See Clearly Now(カバー)
映画『クール・ランニング』で再び脚光を浴びた爽快ソング。
どんな朝も明るくしてくれる一曲。
Jimmy Cliffが遺してくれた“生き方のメロディ”
Jimmy Cliffの人生は、常に“次の一歩”を探す旅だった。
島を出た若者が世界へ、そしてまた島へ戻り、音楽を通じて希望を歌い続ける。
その姿には、華やかさよりも、静かな強さがあった。
- 困難を歌に変えること
- 自分の声を信じること
- 夜が続いても、朝はやって来ると知ること
そして、どれほど大きな川であっても、
音楽を携えていれば必ず渡っていける、という確信。
Jimmy Cliffの歌は、そんな“生きていくためのリズム”を私たちに残してくれた。
最後に
Jimmy、ありがとう。
81年の旅路を終えた今も、彼の声は確かに響いている。
夕暮れの車内でも、真夜中の部屋でも、
海辺の散歩道でも、街の雑踏の中でも。
ふとした瞬間に「Many Rivers to Cross」が流れれば、
きっと私たちは、また人生のどこかで彼と出会えるだろう。
Jimmy Cliff。
あなたの音楽は、まだ世界を旅し続けています。





















この記事へのコメントはありません。