ブラックストリート『Blackstreet』(1994)――“渋谷発・ブラックミュージック新時代の夜明け”
■ 街の空気が変わった——“ブラック・サウンド”が日常に溶け込む時代
1994年の東京。
夜の渋谷109前では、ビッグサイズのシャツとバギーパンツ、そしてティンバーランド。
“渋カジ”と呼ばれたファッションの波の中で、ストリートにはヒップホップとR&Bが静かに、しかし確実に浸透していた。
当時はまだCDウォークマンが主流。
原宿「タワーレコード」や新宿「WAVE」では、アメリカから届いた“ブラックミュージック”の新譜が次々と陳列され、輸入盤コーナーにはこのBlackStreet(ブラックストリート)のデビューアルバムが黒光りするように並んでいた。
「テディ・ライリー再始動!」というポップ付き。
それもそのはず、彼こそ80年代末のニュー・ジャック・スウィングを生み出した張本人。ガイ(Guy)で世界のクラブを揺らした男が、新たな仲間とともに放つ一撃が、この『Blackstreet』だ。
■ アルバムレビュー:「洗練とストリートのあいだ」
冒頭の「Baby Be Mine」は、テディ流のキレ味あるドラム・プログラミングと甘いハーモニーの完璧な融合。
続く「Booti Call」は全米R&Bチャート7位。まるで当時のNYクラブ“Palladium”の空気をそのまま真空パックしたようなグルーヴだ。
そしてアルバム最大の名曲「Before I Let You Go」。
全米R&Bチャート2位、ビルボードHOT100でも7位という大ヒットを記録。
テディの繊細なアレンジと、チャウンシー・ハンニバルの柔らかなリードが織りなすスロウ・ジャムは、後の“R&B黄金期”を予感させた。
まさに「ブラックミュージックが都会の夜を支配した」瞬間。
テディ・ライリーの手腕は、R&Bの持つメロウネスとヒップホップのリズム感を絶妙にブレンド。
それはまるで、ジャズ喫茶のムードをクラブビートに乗せたような、“知的なストリート”のサウンドだった。
■ プロフィール:BlackStreetとは何者か?
メンバーは、
- Chauncey “Black” Hannibal(リード)
- Levi Little
- Dave Hollister
- Mark Middleton
そして総指揮を執るのは、プロデューサー/マルチプレイヤー Teddy Riley。
ヴァージニア州出身のテディは、マイケル・ジャクソン『Dangerous』にも関わった天才。
彼が再び仲間と組んだこのプロジェクトは、単なるボーカルグループではなく、90年代ブラックミュージックの最前線を提示する実験室でもあった。
■ 日本の94年——R&Bとともに変わる“夜の遊び方”
当時の日本では、まだ「R&B=マニア向け」の印象が強かった。
しかし、クラブシーンでは渋谷の「CLUB HARLEM」や横浜の「Le Freak」が注目を集め、
深夜のFMではDJ OSSHYやDJ KOOがブラックミュージックを熱く紹介。
街には“R&Bナイト”という言葉が定着し、学生やOLたちが「ポケベルを鳴らして深夜の渋谷へ」という時代。
トレンディドラマ『あすなろ白書』や『東京ラブストーリー』の中でも、アメリカ的恋愛観や都会的サウンドが憧れとして描かれた。
まさに“洋楽=ファッション”の象徴だった。
そんな時代に『Blackstreet』が持ち込んだのは、ただの輸入サウンドではない。
それは、ブラックミュージックが日本の若者文化の一部として根付く“決定打”だった。
■ 編集部コメント:
「ブラックミュージック」と聞くと、かつてはソウルやファンクの“濃い”世界を思い浮かべたが、BlackStreetが示したのは“現代的な都会の愛と生活”。
ストリートで踊り、仕事で疲れ、恋に揺れる。そんなリアルな感情をビートに乗せる新しいR&Bの姿だ。1994年のこの作品は、まるでポケベルの短いメッセージのように、切なくて、でも確かに響いた。
ブラックミュージックが時代と共に生きる――その象徴的な1枚である。
■ 総評:
『Blackstreet』は、ニュー・ジャックの洗練とR&Bの成熟を繋ぐ“架け橋”であり、
その後のR&B黄金時代(ボーイズIIメン、ジョデシィ、トニ・トニ・トニ…)の礎を築いた歴史的作品。
1994年の渋谷の空気を思い出すとき、
そこには確かにこのアルバムが流れていた。
評価:★★★★★(編集部 推薦盤)
“夜の交差点で、君のポケベルが鳴る。BGMはBlackstreet——それで十分。”





















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