Eugene Wilde – Eugene Wilde(1984)
1984年――日本ではマクセルUDⅡのCMソングや新宿アルタ前の雑踏に最新シンセポップが鳴り響き、ナウい若者の間では原宿の“竹の子族”の残り香がまだ感じられた頃。そんな時代に、アメリカから静かに、しかし確実に波及してきたのがメロウで艶やかなブラックミュージックの流れだった。その中心に立っていた一人が、このユージン・ワイルドである。

◆ Eugene Wilde プロフィール
フロリダ出身。10代の頃から家族バンドで活動し、その後作家・シンガーとして頭角を現す。ウォーマーで気品あるテナーボイスを武器に、1984年のデビュー作 Eugene Wilde で一躍メロウR&Bシーンの中心へ。彼の歌唱は同時代のカシーフやフレディ・ジャクソンらと並び、静かに浸透するアーバン・ソウルの代表格として語られる。
■ アルバムレビュー
デビュー作ながら完成度は非常に高く、軽やかなミディアムから艶のあるスロージャムまで、アーバン・コンテンポラリーの磁力が全編を支配する。
当時の若者文化では、ウォークマンで聴く“夜の音楽”としてブラックミュージックは確実に市民権を得ていた。本作はまさに、昭和の深夜ラジオを煌めかせた一枚と言ってよい。
プロデュースは当時伸び続けていたフロリダ・シーンの若手クリエイター陣。煌びやかなシンセを軸にしながらも、都会的で洗練されたアレンジが施され、メロウR&Bの魅力を存分に伝えている。
■ チャート情報
アルバムはR&Bチャートで好調に推移し、特にシングルは大成功。
● “Gotta Get You Home Tonight”
- Billboard R&Bチャート:1位(1984)
- まさにユージン・ワイルドの名を決定づけた代表曲。
● “Personality”
- Billboard R&Bチャート #34
- これらの成功により、彼はメロウ・ソウルの新時代を象徴する存在となった。

■ “Gotta Get You Home Tonight”
アルバムの象徴であり、いまもR&Bスロージャムの金字塔。ねっとりと甘く、しかし決して下品にならない絶妙なバランス。
イントロのシンセ・ストリングスが夜の街灯を思わせ、ユージンの声がゆっくりと体温を上げていく。
最大の魅力は“密室感”。
80年代特有のアナログ・シンセの粘度と、軽くリバーブのかかったテナーボイスが、リスナーと彼の距離をぐっと縮めてくる。
昭和の喫茶店で流れたら、一気に空気が変わってしまうほどの“香り”を持つ曲だ。
歌詞は恋人を家に連れ帰りたいというストレートな内容だが、ユージンのスムースな表現力により、むしろ優雅でロマンティックな“誘い”として響く。90年代にはFoxxy Brownが“Get You Home”で大胆にサンプリングし、R&B~ヒップホップ世代にも受け継がれたのは有名な話。この曲が生み出す“甘い夜の空気”こそ、当時のブラックミュージックが持っていた最大の魅力だ。
マービンゲイ“Sexual Healing”からの進化系譜
“Gotta Get You Home Tonight”とマーヴィン・ゲイの“Sexual Healing”を並べて語ると、R&Bの「80年代スロージャム進化系譜」がよく見えてきます。両者には**直接的な関係はないものの、音楽的・時代的に深く結びついた“影響の流れ”**が存在します。
どちらも1980年代初頭に台頭した「アーバン・コンテンポラリー」の甘く洗練されたスロージャム。
・シンセ主体のアレンジ
・ヘッドホン向きの密室的サウンド
・男性テナーによる“囁くような官能ボーカル”
これらの要素が共通点として挙げられます。この文脈を作ったのが、1982年のMarvin Gaye – “Sexual Healing”であり、
その流れをより“上品な甘さ”で継承したのが1984年のEugene Wilde – “Gotta Get You Home Tonight”という位置づけと言えるでしょう。
■ アルバム総評
デビューにして頂点級。
メロウR&Bの入門としても、80’sソウルの深層を知る上でも外せない一枚。
昭和の夜、渋谷センター街のネオンをぼんやり眺めながらウォークマンで聴く…そんな景色が自然と浮かんでくる。
本作は、
「静かに熱いブラックミュージックの到達点」
として、いまなお多くのファンに愛され続けている。






















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